シナリオ「taiwa」
○占いの館風、薄暗い室内(夜)
小さなテーブルを挟んで向き合う男女。
男「本当の自分を見てくれる人が欲しい」
女「では本当のあなたを晒しなさい」
男「それはできない」
女「では誰も本当のあなたを見ることはないでしょう」
男「そこを何とか」
画面真っ黒。
○建物の隙間(昼)
道端に座り込む男A。後ろから近づく男B。
A「(ため息)」
B「あそこに蝶がいるだろう」
地面にとまった蝶がいる。
B「あれは死骸だ。車に轢かれた身体が地面にへばりついて、残った羽だけが風に吹かれて揺れてる。あれはいつまで揺れているんだろう」
蝶の羽を見つめるA。
ABの傍を通り過ぎるC。
○五号館回廊(昼)
廊下を男Eと歩く男C。
E「どうもわかんないな、お前の好みは」
角を曲がる。
C「そう?」
E「じゃあ、一言で言ってくれよ。好きなタイプ」
角を曲がる。
向かいから歩いてくる女D。
C「腕の中にいてくれる人」
D「腕の中にいさせてくれる人」
○五号館回廊(昼)
廊下を女Fと歩く女D。
F「なんかよくわかんないんだけど」
角を曲がる。
D「うーん」
F「結局、どんな感じの人がいいの?」
角を曲がる。
向かいから歩いてくる男C。
D「腕の中にいさせてくれる人」
C「腕の中にいてくれる人」
○八号館食堂(昼)
食堂。二人で食事をしているEF。
E「実はこいをしてるんです」
F「こいですか」
E「本当につらくて」
F「こいですか」
E「離れたらもう、一秒だって安らぐことができなくて」
F「こいですか」
E「今にも自分が消えそうで、何もかもなくなってしまいそうで」
F「こいですか」
E「どうすればいいんでしょう。ねえ」
F「食べちゃったらどうですか」
E「なるほど」
EFの後ろの席に男G男I。
○狭いアパート(夜)
家で食事をしているGと妻H。
G「大丈夫だって。お金がなくなったらなんとかするから。うん、お米がないくらい、どうとでもなるし。任せとけって」
H「(笑顔で)はい」
Gのご飯茶碗が空になる。妻が自分の茶碗をさしだす。そちらを食べ始めるG。
G「そうだ。今度どっか旅行に行こうよ。近場の海岸とかさ。今あるお金集めれば、交通費ぐらいにはなるんじゃないかな」
H「そうですね」
Gの味噌汁碗が空になる。妻が自分の碗をさしだす。そちらを食べ始めるG。
G「大丈夫大丈夫。そのうち海外旅行とかも行こうか。あったかいとこがいいな。あ、そのときは子供もいるといいな」
H「そうですね」
Gのおかずがなくなる。妻が自分のおかずをさしだす。そちらを食べ始めるG。
G「うん、そうしたらでっかい家も買わなくちゃな。あ、でもどうせ俺はずっとお前と一緒にいるだろうから、広くても意味ないか。じゃあ広い庭を作ろう。子供たちと遊べるような庭」
H「いいですね」
食べ終わるG。
G「ごちそうさま」
H「ごちそうさまでした」
微笑んで、深深と頭を下げるH。
○広場(夕方)
男Iと女Jが八メートル二十センチ離れて向き合い立っている。
二人とも無表情で淡々と。
I「あなたが欲しいのですが」
Iが一歩近づく。
J「あなたにあげたくないのですが」
Jが一歩退く。
I「それでも欲しいのですが」
Iが一歩近づく。
J「やっぱりあげたくないのですが」
Jが一歩退く。
I「それでもやっぱり欲しいのですが」
Iが一歩近づく。
J「あなたにあげたくないのですが」
Jが一歩退く。
I「あなたが欲しいのですが」
Iが一歩近づく。
J「あげたくないのですが」
Jが一歩離れる。
I「あなたが欲しいのですが」
Iが一歩近付く。
J「あげたくないのですが」
Jが一歩離れる。
I「あなたを貰います」
Iが一歩迫る。
J「あげたくないのですが」
Jの肩がつかまれる。
I「貰います」
Iが一歩近づく。腕を回す。
J「あなたにあげたくないのですが」
Jが腕を伸ばしかける。
○狭いアパート(夜)
暗い部屋で近距離に向き合って座る男Kと男N。
画面がだんだん暗くなっていく。
Nに目を合わせないK。
K「眠かったんだ」
N「だから仕方ないか」
K「眠かったんだって」
N「だから仕方ないと」
K「だって眠かったんだよ」
N「じゃあ仕方ない」
K「仕方ないよ」
N「仕方ない」
画面真っ暗。
○建物の隙間(昼)
最初のABの場面。道端に座るA。後ろに立つB。
Cが通り過ぎていく。蝶を眺める二人。
B「ちゃんと想像してるか。あの死骸の美しさ、切なさ、グロテスクさについて」
A「そんなことを俺に言って、何がしたいんだ」
B「別に。言いたかっただけだ」
蝶を眺める二人。
A「蝶」
B「うん」
A「いずれ朽ちるさ」
B「そうか」
A「いずれ朽ちるさ」
B「そう」
蝶を眺める二人。
と、蝶が飛ぶ。
A「飛んだ」
Aに背を向け立ち去るB。
(了)