バットと

  最初に出会った頃は優しかったのにな。
  最初は彼女の肌を撫で回すだけだった彼は、すぐに彼女をバットで殴るようになった。
  彼はまだ学生で、最近、学校での立場が変わったらしい。だから彼女を殴る。殴るたび、
彼は喜んだ。彼女も、殴られるたび喜んだ。自分を殴る彼が、気持ちよさそうだったから。
  でもある日、彼女は彼と友人との会話を聞いてしまった。
  もうボロボロだし、壊れかけてて、使い物にならないし。捨て時だろ。
  扉一枚向こうに彼女が居ることを知っているはずの彼の台詞。感情は感じられなかった。

  彼は野球部だった。今日は練習試合らしい。サード。バットは持っていない。ボールが
こないとすぐ呆っとしている。彼女が見ていることには気づいていない。あくびをした。
  その瞬間、誰かが背後から彼女をバットで殴った。それを合図に、彼女は動けないはず
の体を動かして、全身で彼の口に飛び込んだ。彼の驚いた表情、瞬間、視界が暗くなる。
彼の歯と、顎骨の割れる音が聞こえた気がした。

「アウト!」
  サードの選手は、ボロボロになったボールを血だらけの口に頬張ったまま気絶していた。

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