苗日記
日記に、嘘を書くことにした。
六月十一日
・ 道端で拾った苗を、鉢に植えて三週間目。その植物は、ついに鼻を咲かせた。
・ 後は目と口が咲くのを待つばかり。今のところ輪郭は美人。
六月十六日
・ いつの間にか耳が生えていた。まだ口がないので、俺が一方的に語りかける。
・ 昔話が気に入ったようだ。俺自身、十数年ぶりに触れる昔話は面白い。
六月二十二日
・ ついに目口も咲き揃った。彼女の声を聞いた瞬間には感動した。
・ 彼女の話は興味深い。人間を『植物の排泄物』と呼ぶ。なるほどと納得。
六月ニ十六日
・ 彼女とキスをした。甘かった。比喩ではなく。美味しい。
・ 俺の体液と排泄物が肥料となり育つ彼女の蜜が俺の腹の中に。
・ 循環。小さく完璧な世界が。このまま鉢に埋まりたい。
……日記帳から顔を上げる。視線を巡らし彼女を探す。
どこに置いたか。久しく彼女を見ていないような気がするが。













